解説に「読みやすさを念頭に置いて書かれている」とあるように、本当に読みやすいです。
でも、どちらも内容はヘビーです。
「養鶏場の殺人」
実際の事件をもとに書かれているらしい。
若い二人、エルシーとノーマンが出会って、恋仲になって、ノーマンの気持ちは離れていく…と色恋沙汰なところが基本。
そこに、うまくいかない仕事、エルシーの精神的な不安定が加わって、何からも逃れられないノーマンが何をしたのか?という事件なのです。
これは、偽妊娠で心をつなぎとめようとするエルシーが鬱陶しくなったノーマンが何かやらかしたと考えるのが今風でしょう。
私も最後の著者のノートを読むまでは、そう思ってました。
とりつくろうような電報もあるし。
が、ああ、なるほど。
純朴であるが故のノーマンの供述、これがきっと真実なのでしょう。
コナン・ドイルが実際の判決に異議を持っていたというのも、この点なのかもしれません。
裁判部分は少なく、エルシーとノーマンの物語になっているところがまた印象深いです。
「火口箱」
これは、まさかの犯人でした。
それにしても、見たいようにしか見ず、思いたいようにしか思わない人間の憐れさが痛いです。
偏見を持つ人に立ち向かっているアイリッシュのシヴォーンは、正義の人だと思ってました。
が、実は彼女も「アイリッシュは偏見を持たれている」という枠の内でしか物事を見られない人と描かれているのが、犯人と同じくらいに「まさか」でした。
ネタバレとかじゃなく、過程そのものが主役とでもいいましょうか。
二編どちらも、スラスラと読めてしまいます。
だからといって、薄っぺらいわけではなく、かえって重く感じられるのが、単純にすごいなあと思います。
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